第7章 過去1
私が覚えているのは、何者かに攫われる前の平凡(攘夷戦争中だから本当に平凡って訳ではないけど)な日常と「何者かに攫われた」「そしてそこから逃げてきた」という事実だけだった。
気付いたら江戸にいたし、気付いたら攘夷戦争は終わってたし、気付いたら何年もたってた。
思い出そうとしても思い出せなくて。
丁度その逃げてきたころ、メンタルとか体の不調があったから病院に行ったら「強烈なストレスによって記憶がなくなってしまっている」とのことだった。
よっぽど思い出したくないことなのだろう。
思い出したら私自身がきっと消えてしまいたくなるような、酷いことなのだろう、と自らを納得させ、思い出そうとすることは諦めた。
周りに知り合いなんていなかったから、私がどうなってたかを聞く術はないし。
だけど突然なにかわからないものがフラッシュバックすることがある。
それがきっと過去の断片的な記憶の一部であることは何となく察してはいる。
人間の姿をした、だけど人間ではない何かに襲われる夢を見たりする。これも記憶の一部なのだろうか。