第8章 酒の呼吸
『あの…えっと…ごめんなさいっ!!』
玄弥は実弥にそう言って頭を下げた。
『別に謝るような事はしてねェだろうが…』
実弥はそっぽを向きながら頭をかいていた。
『だって…あの時…兄貴に酷い事を言ったから…だから…謝りたくて…』
玄弥はボロボロとまた泣き始めた。
『あ〜っ!!泣くなっつうの!!俺はな…お前には普通に世帯もって…普通に暮らして欲しかったんだよっ!!それをお前は…こんな所まで来やがって…』
『ごめん…でもっ!!俺…呼吸できるようになったんだっ!!』
『あァ…知ってらァ…頑張ったな…玄弥…』
実弥は泣いている玄弥を数年前までは桜雪にしか見せなかった心からの笑顔で頭を撫でた。
『こんなにうるせえのに起きない桜雪ってどうなんだ?』
宇髄が2人のやり取りを見ていてふと、言い出した。
『さァな…いつもの事だろ…』
ぶっきらぼうに言い放った実弥だったがどこか不安な気持ちになっていた。
様子を見に来ていたから分かる。
鬼化しそうなだと苦しむ頻度も多いし、寝ていることも多くなってきた。
分かっているのだ。
そうなったのは自分が別れを切り出したあの時からだという事を。
酒の呼吸は年数が経つほどに精神も体も削られていく…鬼化した者や半分、鬼である桜雪くらいしか使えない。
それを使い続けていた桜雪はボロボロになっていただろうに…
それでも、強くあろうと弱音すら吐かない。
いつも強気で勝気な桜雪だが、心は壊れやすいのだ。
溜め込んで溜め込んで突然、何かをキッカケに音を立てて崩れていく…
それが…天晶 桜雪という存在なのだ。