第3章 火をつけたのは…
とある街中にある小料理屋。
夜から明方まで営業している食事処だ。
一般の客も勿論いるが、
主に鬼殺隊士達が利用している店であった。
鬼を相手に日々奮闘する彼らの食事は深夜から明方にかけて。討伐後に自炊するのは体力的に厳しいが、普通は食事処も閉まっている時間。
それ故にこの店はいつも隊士達で賑わっていた。
しかし、この日は違っていた。
いつもなら隊士達がたくさん来ている頃だが、何故だか誰もこないのだ。
静かな店内では1人掃除をしていた。
!
今日も派手にイイケツしてんな?!
私のお尻を鷲掴みにしながら、聞き慣れた戯言を口にする派手な出立の男に視線をやる。素顔は全てが完璧に整った美丈夫だというのに、左目に謎の模様を描き、宝石が何個も付けられた額当てをしている。
音柱様も今日も派手におかしな出立ですね!
未だにお尻に触れていた宇髄天元の手をペシンと叩きながらは冷たく言い放った。
なんだなんだ、随分と冷たいな?
それともあれか?俺の気でも引きたくてやってるのか?
宇髄の言葉に顔を歪ませて応える。
馬鹿な事言ってないで、早く帰ったらどうです?
宇髄様はここで食べずとも奥様方がお待ちでしょう?
そう、この男には奥様方がいるのだ。
1人ではなく、3人。とても美しい奥様方が。
ああ、嫁達なら生憎任務で留守にしてる。
なんだ?もしかしてヤキモチってやつか?
宇髄の戯言を聞き流し、は厨房へ戻ろうとテーブルから身体を離し移動しようとした。しかし、不意に後ろから腕を引かれ、身体のバランスを崩してしまう。
気がつくと宇髄の腕の中におさまっていた。
は心底不快そうな顔を向ける。
何ですか、これ。離してくれませんか?
派手にお断りだ。
、俺を拒むな。
先程までのふざけた声ではない。
少しトーンの落ちた声音には肩を軽く震わせた。
このままではまずい…そんな予感がした。