第5章 野薔薇
「お疲れサマンサー!!!」
突然部屋の扉が勢い良く開く。
『悟!おかえりー!』
「...と、あれあれ〜?め〜ぐみく〜ん?何、してたの?こんな時間に組手?それともプロレスごっこ?いい歳してお医者さんごっこじゃないよね〜?それともまさか摘み食い..なんて..?」
「〜〜〜〜〜.......っっしてませんっ!!それに部屋に入るならノックくらいして下さいよ!!!」
突然部屋に入って来た五条先生につい大きな声を出してしまう。
『悟、どうしたの?』
俺の下からすり抜けベッドから降りると、五条先生の傍へ寄る桃花。
「修学旅行のしおりを渡し忘れたと思ってね!」
手書きで“修学旅行のしおり”と書いた色のついた紙を渡される。
これ、本当に必要か?
『わ〜い!おやつに制限はありませんだって!』
「そう!忘れ物しないようにね!さて、明日は早いから良い子はもう寝なさい!」
「おやすみ、桃花」
桃花の額に軽く口付ける五条先生。
「恵も...寝不足には注意だよ!良い夢、見れるといいね。おやすみ〜。」
手を振りながら部屋を出て行く。
『恵!寝よっ!』
しおりを嬉しそうに眺めながら言う。
「....あぁ....」
明日は修学旅行。
また騒がしい日になりそうだ。
今この瞬間だけは俺が桃花を独り占め出来る。
それだけで充分じゃないか。
どんどん貪欲になる自分の気持ちに無理矢理蓋をして、今日も桃花を、桃花の匂いを傍で感じる。
この日々がいつまでも続くようにと願いながら。