第17章 撫子
「ふふ、そうだよね。でも食べたら溶けてなくなっちゃうよね。だから大好物が目の前にあっても我慢して我慢して我慢する。甘〜い香りで誘われてもぐっと我慢し続ける。我慢できなくなってぺろりと味見をしても食べずに我慢する。他の人に食べられそうになったら必死で守る。それでも溶けないように大切に大切にしてあげる。それが“愛”かなぁ。」
『...?』
「桜を好きな人は満開に咲く花を美しいと愛でるよね。でも桜を愛している人は散り際も、葉がないときも、雪を被った姿も、緑が芽吹いてきたときも美しいと愛で続けて大切に大切に育てる。」
『.....。』
「桃花ちゃんは本当はもう気がついているんじゃないのかなってね、僕は思うよ。」
私を引き起こしておでこにもう一度ちうっと優しく唇を落とす。
それと同時に控えめに扉がノックされる音が耳に届いた。
「王子様のお迎えかな?」
憂太くんが扉を開けた先に見えたのは恵の姿。
『恵?』
「乙骨先輩、突然お邪魔してすみません。.....迎えにきた。部屋、戻るぞ。」
「お迎えに来てくれると思ってたよ。あと少し遅かったら危なくぜーんぶ食べちゃうところだった。」
「.....。」
「冗談だよ。お姫様、ちゃんと守ってあげてね。次に帰ってきた時もお姫様がふわふわしてたら今度こそ僕が捕まえちゃおうかな。」
『どうしたの?』
ふたりが何か話しているようで、ベッドを降りそちらへと近寄るとふわりと肩に掛けられるカーディガン。
「そんな薄着で出歩くなって言ってるだろ。」
『ぅ、うん。ごめんなさい...。』
「それじゃあまた明日!伏黒くん、桃花ちゃん、おやすみなさい。」
『憂太くん、おやすみなさい。お話し聞いてくれてありがとう。』
「どういたしまして。またいつでもおいで。伏黒くんが許してくれたらね?」
優しく笑う憂太くんのお部屋を出て、静かな廊下を二人並んで歩く。
『どうしてお迎えに来てくれたの?』
「どうしてって...。心配だからだろ...。」
『心配?どうして?』
憂太くんのお部屋に居るのにどうして心配する必要があるのだろうか。