第3章 リナリア *
side 伏黒恵
小学校から帰りひと段落したところでドンドンと荒々しく扉を叩く音が部屋に響く。
こんな雑なノックの仕方をする人物は一人しか居ない。
「恵〜?帰って来てる〜?恵の大好きな五条先生だよ〜!」
ほら、やっぱり。
扉の向こう側から聞き慣れた声が自分を呼んでいる。
溜息を一つ吐いて扉を開ける。
目の前には予想通りの人物。五条先生。
「帰ってます。大きな声を出さなくても聞こえてます。大好きではないです」
不機嫌そうに淡々と話すが気にする様子もなく五条先生はヘラヘラと続ける。何だかいつもより嬉しそうに見える。経験上、こういう時にはロクな事がない。
「今日はね!紹介したい子を連れて来たんだぁ!ジャジャ〜ン!今日から一緒に暮らす事になった桜木桃花ちゃんで〜す!」
背後から少女を引っ張り出し俺の目の前に立たせる。
白い肌、こげ茶色の長い髪、小さな顔にはバランス良く整ったパーツが収まっている。長いまつ毛、そして今まで見た事もない桜色の瞳。まるで人形のようだ。思わず無言で見入ってしまう。
『....めぐみ....ちゃん....?』
少女は自分の名前をそれは可愛らしい声でちゃん付けで口にした。
それを聞いた五条先生が声を出して笑う。
「あははっ..!そっかそっか!いつも恵、恵って話しか聞いた事がなかったから桃花は恵の事女の子だと思っていたんだね!」
そういう訳か。いつも説明が足りないんだよな、五条先生は。
少女と一瞬目が合ったがスグにそらされてしまう。
「ほらほらぁ〜。恵ったら黙りこくっちゃって一目惚れ?きちんとご挨拶しな、さい!」
そう言ってデコピンをしてくる五条先生。
めちゃくちゃ痛い..。
一目惚れ?この感情がそうだと言うのならもしかしたらそうなのかもしれない。
異性をこんなにも綺麗だと思ったのは産まれて初めてだった。