第1章 あの頃
うっすらと雪の積もる道を白い息を吐きながら足早に進む。
小学3年生。
小柄な彼女にランドセルはまだまだ重たい。
『ただいま!』
小さなアパートの1階の角部屋。
扉を開けて息を弾ませながら部屋に入る。
『おかあさん!私この間の絵画コンクールで金賞をもらったんだよ!こっちはね、算数と国語のテスト裏も表も100点!』
今日もらったばかりの賞状と全て丸の付いた紙を嬉しそうに広げて見せる。
「そう」
と目を合わさず冷たい声色で一言が返ってくる。
『....うん!おかあさん、何かお手伝い出来ることはある?』
遠慮がちに問い掛ける。
「そうね、それじゃあ」
「今すぐにここから出て行ってもらえる?
その気持ち悪い眼で私の事を見ないでちょうだい。」
あぁ、これはこのまま家に居ては駄目だと今までの経験から心と身体がすぐに理解する。
『...はい。すぐにそうする。...おかあさん、ごめんなさい。』
帰宅して僅か数分、靴を履き直し元来た道を引き返す。
丁度学校と家の間ほどにある小さな公園に入る。
奥に小さな神社が隣接してあり、賽銭箱の前に腰を下ろす。
他に行くあてもなく家を出て行かなければならない時にはいつもここで時間を潰していた。