第6章 マリーゴールド *
「.....嫌いになんてなってない....。むしろ俺の方が.......嫌われた..かと.....思って......」
不安で堪らなかったんだよ...。
『...!恵のこと嫌いになるわけないもんっ...!』
俺の服を握っていた手の力が更に強まるのを感じる。
「........っ!.....昨日は.....本当...悪かった。....怖がらせた...。桃花は何も悪くない。本当...ごめんな....。」
小さくて細い身体をぎゅっと抱き寄せる。
.....本当...ごめん...。
『...めぐ..み.....大好きっ....』
今までで一番強い力で抱き締め返してくる。
もうその言葉は聞けないかもしれないと思っていた。
桃花の頬に涙が伝う。
...また泣かせてしまった...。
しばらく俺の胸におさまっていた桃花が突然何かを思い出したようにもぞもぞと動く。
俺の両手をその小さな両手で握り、泣いて濡れた大きな瞳で俺を見上げる。
『....ねぇ、恵?仲直りしたいの.....食べて?』
「.................................っっっ!!!」
一気に顔に集まる熱。
(ハイ。ヨロコンデ イタダキマス。)
.......じゃなくって!!!
昨日のことを反省したばかりなのに脳内はもうそんなことを考えてしまう。
いや、でも待てよ。
「〜〜〜〜.....っっちょっと....待て。それ、どこで教えられた?」
『.....へ.....?』
「....その....“食べて”....って...........」
言葉にするのも恥ずかしくて片手で顔を覆いながら目を逸らす。
『悟がこう言ったらすぐに仲直りできるって!教えてくれたよ?』
「.............やっぱりな。」
そんなことだろうと思った。
相変わらず何教えてんだ、あの変態教師。
「.....ケーキ、買って来たんだろ?コーヒー淹れてやるから...一緒に食べよう?」
はぁ、とひとつ溜息をついて桃花の頭を撫でる。
『.....!うん!』
いつもの嬉しそうな顔でケーキの箱を開ける桃花。
この笑顔を失いたくない。
だから俺はこれからも
自分の感情に無理矢理蓋をし続ける選択をする。