第23章 藤の華に揺れる〜❶〜
雨でしっとりと髪が濡れてしまっている杏寿郎が立っていた。
『杏寿郎様!?どうなさったのですか?こんな濡れて…』
手拭いを差し出した腕を掴まれる。熱く燃える瞳が私を映していた
『父上に憂との結婚の許しをもらってきた!!』
『え?何をおっしゃっていられるのか…』
『憂の言っていた身分がどうだとか、自分を卑下している部分とかそんなこと、気にせず俺の元に来ないか?憂を手放せそうに無い。いつ死ぬかも分からない身で勝手な事を言っているのは分かっている…困ったな、泣く程に嫌だったか?』
形のいい眉が下がり、笑われてしまう
ポロポロと落ちる涙に気付くも腕を掴まれたままなので隠す事もできない
『違うのです、嫌では無くて…杏寿郎様、お側に居ても良いのでしょうか?こんなに自分勝手な私を、』
『憂!俺が其れを望んでいるのだ。君こそもう離してやれないのだけれど覚悟は出来ているのか?』
『あ…ですがこの屋敷と祖父母を残しては』
『その件も解決済みだ!先程会ってきたからな!』
『え?そんなに早く?』
『2人とも泣いて喜んでいた!明日には帰って来ると言うので先に憂に話をしに来た!』
『そうでしたか、祖父母が、、』
両親の代わりに育ててくれた2人が泣く程に喜んでくれている事実にホッとした。
『屋敷も後継者が出来たらしい。そちらもこの屋敷に戻ってくるそうだ。』
『後継者、ですか、?(誰だろう…)』
『そろそろ抱きしめても良いだろうか?我慢した方だと思うのだが』
うーんと考えていたところぎゅっと手を握られる
毛先から水滴が滴っていた。
『それよりも!早くお風呂へどうぞ!風邪をひかれてしまいます!』
グイグイと小さな手に引かれて風呂場までやってくる。
日頃の鍛錬のおかげで風邪をひきにくくなった事は言わなくても良さそうだと、後ろで笑みを溢す。
中には浴衣が綺麗に畳んで準備されていた。
『憂、何処へ行くんだ?』
先程まで引っ張ていた手が離れようとしていたので自分の方に引くと最も簡単に腕の中に収まってしまう。
耳が赤く染まるのを嬉しく思いつつ悪戯心が芽を出した。