第1章 強制ビギニング!
「もうオレがこうやって、一晩中ギューってしててあげる…。そしたらだんだん眠く、なってくん…でしょ」
フロイドは、言葉の通りエリーを強く抱き締める。そして言いながら、自分もうつらうつらと瞳を閉じていくのだった。
それを見ていたジェイドは、愉快そうに喉を鳴らす。
「ふふふ。フロイド、それくらいで眠りに就けるくらいなら最初から苦労は…」
彼は、途中で言葉を途切らせた。気が付いたからである。エリーがフロイドと同じように、夜に身を投じんとしていることに。
何が彼女を、そうさせたのかはジェイドには分からない。抱き締められ、クローゼット内に似た圧迫感を得た為か。それとも、他人から与えられる体温が、安らぎを与えたのか。
それは、彼の知るところではない。ただ彼は…
どうしてエリーが、クローゼットの中でしか眠れない身体になってしまったのかを、知っている。
本人さえ知り得ない真相を知る、数少ない人物だ。ただ、いま彼の頭を支配しているのは全くの別事だった。
「おやおや…おやおやおや」
ジェイドは おやおや言いながら、自分もフロイドのベットに潜り込んだ。
いま彼の頭の中にあるのは、フロイドだけ狡い。ただこれだけ。
シングルベットに彼が加わったことで、エリーはまるでサンドイッチのレタスのように ぺちゃっと薄くなってしまう。しかし彼女の表情は、安心感で満ち満ちていた。
幸せそうな寝顔である。自分を待ち受ける、明日からの新生活を夢見ているのであろうか。