第23章 怪我の功名
「それで?何でまだこんなに腫れてるんですか?俺が渡した塗り薬塗って、薬湯飲んで、安静にして…それで、こうなる理由を教えていただきたいんですけど?」
翌朝、心配して朝一番に登城して様子を見に来てくれた家康に、私達はこっ酷く叱られていた。
「あ、あのね、家康…そのぅ…」
昨夜はあの後、やっぱりというか何というか一度きりで終わるわけがなく、反対に盛り上がってしまって、結局いつものように信長様が張り切って動いてしまい…気が付いたらいつの間にか夜が明けていた。
激しく動けば、当然治るものも治るわけがなく、朝になったら腫れが引くどころか昨日よりも酷く腫れている有り様だった。
はぁ…っとわざとらしい溜め息を吐く家康を前に、私は居た堪れない気持ちで身を縮ませる。
(あぁ、恥ずかしい…結局、信長様の勢いに流されちゃって朝まで…なんて、家康になんて言って説明しよう…)
「たかが捻挫だ、大したことはない。大袈裟だぞ、家康」
信長は家康に包帯を巻かせながら不遜に言い放ち、不貞腐れたようにそっぽを向く。
「たかが捻挫ねぇ…昨日俺を訪ねてきた時の朱里は本当に心配そうにしてましたよ。今にも泣き出しそうに不安そうな顔して…この子にあんな顔、二度とさせないでやって下さい」
「家康っ…」
怒ったように言いながらも、きちんと薬を塗り、信長様が痛くないように丁寧に包帯を巻く家康はやっぱり優しい。
昨夜も、駿府から戻ったばかりで疲れていただろうに嫌な顔一つせず、信長様のために急いで薬を調合してくれた。
今朝だって、こんなに早くから様子を見に来てくれた。
(それなのに私ったら…)
「家康…ごめんなさい…」
自分が情けなくて、家康の前でがっくりと項垂れる。
「……いいよ、別に。あんたに怒ってるわけじゃないから。とにかく、しばらくは絶対安静です。信長様、いいですね?くれぐれも無茶しないで下さい。夜伽なんて…もっての外ですから!」
「くっ…家康、貴様…」
苦虫を噛み潰したように顔を顰める信長に対して、涼しい顔の家康は、用は済んだとばかりにさっさと治療道具を片付けて立ち上がる。
冷ややかな目でチラリと見られて、二人して肩を竦める。
「まぁ…捻挫ぐらいで済んでよかったです」
部屋を出る家康がボソッと呟いたその一言に、信長と朱里は顔を見合わせてどちらからともなく微笑むのだった。