第9章 父親
:「はい。ですが実は、私聞いてしまったんです。あなたが、兄の目は治らないだろうと言っているのを。もちろん、今は私も医者をやっておりますので、あの時のあなたの動きを思い返せば、一生懸命治そうとしてくれていたことは分かってます。」
成:「そうか。そう、治そうとはしていた。だが、私はどうしてもあのほとんど全盲の状態から治せるとは思えなかった。だから、父上に言ったんだ、きっとどう頑張っても治らないだろうと。そしたら父上はね…」
は黙って聞いていた。
成:「そしたら父上はね、12,500円払うから息子の目を治して欲しいと言って聞かなかった。」
:「そんな大金を…」
は開いた口が塞がらなかった。この時代の12,500円というのは今でいう5,000万円なので、それもそのはずだった。
成:「それだけの誠意を見せられて私も応えないわけにはいかないと、死に物狂いで方法を探し、研究した。だが、結局治せなかった上に亡くなってしまった。もちろんお金は受け取らないと言ったが頑なに聞き入れなくてね。毎月お金を持ってきてたよ。ついこの前まで。」
:「まさかずっと返し続けていたんですか…?」
成:「あぁ、南の遠くの方まで行って往診を続けていたようだよ。」
:「もしかして、だから母が亡くなったときも…?」
成:「月に一度帰ってくるくらいでは肺炎に気付けず、ある時帰ってきたら愛する妻が亡くなっていた。息子の死にも、妻の死にも駆けつけてやれなかったと、そして、娘の君に合わせる顔がないと、泣いていたよ。」
:「うそだ…だって、そんな…あの人は私が話しかけても…ぶっきらぼうに返してきて…それで…」
成:「自分は君に何も言ってあげる資格はないと思っていたんだよ。」
は瞬きもせずに涙を流していた。
成:「今の話が信じられないなら南に下りながら、ある町ある町で君の父上の名前を聞いてみるといい。感謝の言葉が次々出てくるだろう。そうそう、これを君に返しておこうね。」
そう言って成宮がの前に置いたのは