第4章 煉獄邸
:「杏寿郎さん、もし良かったら、杏寿郎さんも私と怜のことを少女を付けずに呼んでください。」
杏:「あぁ!分かった!では一つ聞いてもいいだろうか!!」
:「フフ、はい、何でしょう?」
杏:「なぜは医者になったのだ?もし答えたくないのなら答えなくても良いぞ。」
:「そうですね…、"嘘つき"になりたくなかったから、ですかね…」
杏:「嘘つき?それはどういうことだ?」
:「私には昔兄が居たんです。今はもう病で死んでしまい居ませんが。生まれつき病弱だった上に目が悪く、10歳になる頃にはもう何も見えていなかった。」
杏:「では、や家族の顔が見たことがなかったのか?」
:「小さい頃は見えていたかもしれませんが、大きくなってからは見えなかったでしょうね。」
そうか、と杏寿郎は静かに聞いていた。
:「兄は優しい人でした。私がなぜ兄ばかりがと言った時、兄は、このつらい思いをするのが私ではなく、他人ではなく、自分で良かったと言ったんです。」
杏:「よもや…並の人間ではそんなこと言えないだろう…」
:「私が知るこの世でいちばん優しい人です。そんな兄のことを治せる希望が出てきました。父も医者だったため、その繋がりで目の医者の権威である方にお願いしました。お金はかなりかかったようですが、それなりに裕福だったので、そこに関しては困りませんでした。」
杏:「なら、達の顔をみれるではないか!」
:「私もそう思ってました。でも聞いてしまったんです。兄の病室にある花の水を換え、戻ってきた時、助かるはずがないと言っていたのを。その医者も一生懸命研究してくれていたと今なら分かります。でもその時は、嘘をついてお金を騙し取ったと私は思ってしまった。」
杏:「そう思うのも無理はないだろう。それが悔しくて医者になったのか。」
:「それも確かに悔しかった。だけど、1番自分に腹が立ちました。無知な私は、優しい兄にいつか治る、いつか元気になる、そう嘘を言って励ましてきた。嘘のつもりはなくても、実現しなければそれは嘘になる。