第10章 変化
車での長時間移動に疲労の色が見えてきた頃、車が停車した。まだ目的地は少し先のようだと、なまえは首を伸ばして前を覗き見る。運転をしていた補助監督が、困った顔で4人を振り返った。
「すみません、ここからだと車は難しくて。少し遠回りになりますが、別の道をー」
「いや、いいよ。こっから俺たち徒歩で行くから、あんたは車で待ってて」
「いえ、そんな訳には!帳も下ろさなくてはいけませんし」
「大丈夫大丈夫!俺が下ろすから」
慌てる補助監督をスルーして、五条がなまえに車を降りるよう指で指示する。いいのかと、思わず夏油の方を見るが、彼も五条の意見に特に異論はないのか、車を降りようとしていた。
なまえがドアを開いて車から降りれば、後ろから五条もすぐに出てきた。全員が降りたのを確認して、「んじゃ、行こっか」と走り出した五条に、彼の行動が分かっていたのか並走する夏油。
なまえは硝子と目を合わせて、仕方ないかと頷き、何やら言い募っている補助監督を置いて、男子2人を追いかけた。
目的地に近づくにつれ、正面から色濃く感じ出した呪力の気配に、なまえの表情も少しずつ明るくなり始める。複数感じる、呪力の大きさに覚えがあったからだ。
今回の目的地である屋敷の、全貌がようやく目に入った時。その屋敷が、突如として引きちぎられるように崩壊したのだった。
突然の出来事に、思わず立ち止まりそうになったなまえだが、すぐにその原因を察して、走るスピードを上げた。
「…今の悟だよねぇ?」
「まぁあんなことできるのは五条ぐらいだね」
到着してみれば、地面ごと抉れたように崩壊した建物を覗き込むように立つ五条が目に入り、やはりやつだったかとなまえは独りごちる。
そして、その隣に冥冥の姿を見つけて、ようやくなまえは心から安心したように息をついた。怪我どころか、疲労している様子もなく。
「(悟が言った通りだった…。あの2人が簡単に死ぬ訳がないって…)」
2人、と心で呟いて、歌姫の姿が見えないことに気づく。どうやら夏油と会話をしているらしい五条の側まで行き、その抉れた建物の部分に、歌姫が立っているのを見つけた。ホッとしたなまえと時を同じくして、硝子も五条の後ろから顔を出す。