第9章 祈り
「なまえ、鼻歌唄ってるよー」
硝子に指摘されて、彼女は自分が鼻歌を歌っていた事実に気づいた。一瞬、しまったと驚愕した表情を浮かべた彼女だが、また数秒後には、誰もが知る、クリスマスソングの明るい鼻歌が響き渡る。
彼女は浮かれていた。それはもう、彼女の同級生の誰もが見ただけでそれが分かるぐらいに。
その理由は、今日がクリスマスであるということは勿論だが、それだけではない。
今年の夏休みは、帰省した夏油と硝子。五条が残ってくれたおかげで、なまえは寂しさを感じず、楽しい夏休みを過ごすことができたが、4人揃っていたらもっと楽しかっただろうと思ったことも事実で。
きっと冬休みも、下手をすれば2人だけでなく五条も。帰ってしまうのだろうと、休みに近づくに連れて元気を無くしていた彼女。だが、そんな彼女の予想を覆し、3人とも冬休みは学校にいるのだと知って。浮かれる気持ちを抑えきれずにいた。
「硝子!ツリーどう!?」
「おー、いい感じじゃん。壁もできたよ」
「すごーい!硝子センスある!」
聖夜を目前にして、当然の流れの様にクリスマスパーティをすることにした4人。
会場である五条の部屋を硝子となまえで飾り付けしていたのだ。因みに、五条と夏油は料理担当だ。男女逆ではと思われそうだが、残念なことに料理の腕は男子2人が女子2人を上回っていた。
中々な部屋の出来栄えに、女子会よろしく、盛り上がっていると、コンコンと部屋にノック音が響いた。すぐになまえが駆け寄って、ドアを開ける。
「お嬢さん達、料理を運んできたよ」
「待ってましたー!ありがとう夏油!」
黒い鍋を両手に持った夏油が、落とさない様に気をつけながら部屋の中に入る。途端に、部屋中に食欲をそそる、すき焼き独特の甘辛い匂いが広がった。
早く食べたいと思わず目尻が下がる。
そこでふと、1人足りないことに気づく。五条はどうしたんだろうと、開いたドアから、廊下を覗き込もうとして。
「メリークリスマースっ!!」
「うわっ」