第5章 初夏
本当に、同じクラスに硝子がいてよかった。
もちろん夏油だって良い友達だが、五条と夏油が男同士でこそ何か通じ合っている感があるように、女同士だからこそ分かり合えることもあって。
ベッドの上でそんなことを考えてしばらく時間が過ぎれば、静かに眠気が忍び寄ってくる。
少し寝ようかな、と眠気に身を任せようとして、うつらうつらし始めた時。
ガチャ
ドアの開く音に、意識が覚醒する。
あ、硝子が何か食べ物持ってきてくれると言ってたんだったと思い出し、あれ、硝子なら絶対ノックするのになと少しの違和感を感じながらも「硝子、ありがとう」と体を起こそうとするなまえは、
「お届け物でーす」
軽い口調で入ってきた人物に、思わずベッドから転げ落ちそうになった。
驚きが強すぎて、中々言葉が出てこないなまえを気に留めず、ずかずかと遠慮なく部屋へ入ってきたのは、五条悟。
そこでようやく、現実を受け止めたなまえは、あわててベッドを降りようとして
「はいはいはーい、起きないでいいから。」
片手で頭を押され、簡単にベッドへと押し戻される。
ぼふっと後頭部が枕に沈んで、いや、これはどういうことだと、なまえは混乱する。
「えっ…いや、え?なんで、五条?」
「急な怪我人で硝子が診ることになったんだと。偶然近くにいた俺が捕まって、お前にこれ持ってけって頼まれたの」
そう言って、左手に持っていたトレイを机に置く五条。
おにぎりと、切られた果物が入ったお皿が乗っているのが見えた。
五条の言葉を頭で処理すると、うっすらと硝子が良い笑顔でサムズアップしている幻覚が見えた。
え…これそういうんじゃないよね…?
すぐに出て行くのかと思いきや、近くにあった椅子をひいて、そこに腰を下ろす五条。
背もたれに背を預けて、サングラスの奥から、なまえへと視線を向ける。遠慮のないその視線に、居心地の悪さと、今更ながら個室に2人きりという事実がなまえの心拍数を跳ね上げる。
「……なーんだ、元気そうじゃん」
ジッとなまえを見ていた五条が、両手を頭の後ろで組んで姿勢を崩す。
いや、元気だけどさと思いながら、目を瞬かせるなまえ。
そんな彼女の問いかけるような視線に応えるように、五条は脚を組み、左手に顎を乗せた。