第5章 初夏
「なんていうか、私もこんなちょっと大事になると思わなくて。本当に元気だから。原因はわかってるというか…」
「変なもの食べたとか?」
「あ、いや、それは夏油かな(呪霊的なの)」
「夏バテ?」
「まだそこまで暑くないから…」
適当なところでそうだと認めてしまえばいいのに、律儀に違うと答えてしまうなまえ。
手渡されたペットボトルを空けて、水を一口含む。
原因は分かっているというなまえの言葉に、硝子も原因を当てたくなったのか、あとはー、と口元に手を当てて考える。
「あ、恋煩い 「げほッ!!」 とか?」
気管に流れ込んだ水に、思わず咳き込むなまえ。
あからさまな反応を返してしまった彼女に、場の空気が一瞬静まり返る。
静かに視線を向けられて、なまえはひたすらに目を泳がせた。
「え……マジ?」
「ああっ、あの、いや、あれっ?」
これはマジな反応だと、硝子の目がきらりと光る。
まさか一つ冗談を挟もうと言った「恋煩い」が本当だったとは。
俄然やる気が出てきた硝子はうりうりとなまえににじり寄る。
「この学校以外の人…じゃないよね。関わる機会そんなにないし…」
「あああの、硝子さん、」
「夜蛾先生?は、さすがにないか」
探偵のように調査を進め出す硝子に、冷や汗が止まらないなまえ。
悩むように視線を上へ向けていた硝子探偵は、そこで、「え」と自分でも半信半疑になまえを見る。
「夏油?」
「いやっ、ちがっ」
「…五条?」
終わったと、なまえは悟った。
自分でも分かったのだ、顔の表情筋が、嘘をつかないことを。
今までに見たことがないほど、硝子の目が大きく見開かれる。
「マジ?」
「…っ恥ずかしいっ」
「…あれでいいの?」
「私も自分で自分が信じられないんだけどねっ」
というか、本当にそうなのかまだ分からないと赤くなったり青くなったりするなまえに、これは重症だと硝子は背中を優しく支える。
「まぁ、五条は性格悪いし口も悪いしクズで、私はその気持ちは1ミリも分からないけど、顔は一般的にいうといいからね」
「ちょ、ちょっとそれだと私が顔だけで好きになったみたいじゃんっ」
「え、違うの?」
「…………基本は顔でした」