第5章 初夏
初夏になると呪いが増える。
聞かされていたそれを、身をもって体験することになったのは、入学からそれほど経ったとは思えない頃。
一年生は基本的に4人で組むか、反転術式を持つ硝子を除き、3人で組むことが多かった。
今日の任務も、いつもの3人。廃ビルを走り回ったせいで、埃で薄汚れたスカートを手で払う。
「うー、落ちない」
「この制服、黒いから汚れも目立つな」
女子は大変だと顎に手を当てる夏油の隣で、汚れ一つ付いていない五条が涼しい顔で瀕死だった呪いの頭部らしき部分を踏み潰した。
飛び散るそれらは、五条の体に届くことなく動きを止め、床へと落下して消失する。戦いの時よりも、こんな時に五条の「無限」が羨ましいと感じるのは、女子故なのか。
「傑、こいつはどうする?」
この場で唯一息のある、夏油の呪霊によって拘束されている呪いを指差して五条が問いかける。
「ああ、そいつは取り込むから祓わないでくれ」
「えぇ…」
思わず嫌そうな声がなまえから漏れる。
いや、夏油が祓わずに拘束している時点でそういうつもりなのだろうとは気づいていたのだが。
正直、今回の呪いは見た目がグロテスクなのだ。ぎょろぎょろと動く目玉を見て、取り込むとはどうすることかを知っているなまえは身を震わせる。
「…お腹壊さないでね?」
「人をゲテモノ喰いみたいに言わないでもらえるかな?」
「ゲテモノより体に悪そうだよ。絶対美味しくないでしょ」
喉を押さえてイヤイヤするように首を振れば、「正直、めちゃくちゃ不味いかな」と、半ば諦めた様子で夏油は頷く。
やはり不味いのかと顔を歪めるなまえに、彼は何でもないことのように笑った。
「まぁ慣れだよ」
「慣れかぁ」
「傑はうん百は呪霊食ってるからな」
いやもう千はいってんのか?と五条も当然のように言うから。
やはり何事も慣れなのだとなまえは思う。
自分だって、この学校に入学する前。一番最初に祓った呪いの時は、手の震えも嘔吐もとまらなくて大変だった。涙も鼻水もこれでもかというぐらい出て、今考えたらひどい状態だっただろう。
それが今じゃ、同級生と足並みを揃えて速やかに呪いを祓えるようになったのだ。誰もなまえがイカれていないなんて思わないぐらい(いや、夜蛾先生にはばれたけれど)。