第4章 一ヶ月後
いきなり確信を突かれて、謝ろうと準備をしていた言葉が引っ込む。
意図的にエレベーターを降りたことがバレていた。
あんなに人がすし詰めみたいに乗っていて、みんなの視線はばらばらだったから。気づかれていないと思っていた。
「しかも、わざわざ術式まで使って」
そっちも!?
怖いぐらいに色々バレている。
そもそも自分の術式について詳しく話したこともないはずなのにと、見開いた視線を向ければ、「目がいいんだよ」とサングラスをずらしてみせる。
やはりイケメンだなと、場違いなことを思って。
「で、なーんーでー?東京タワー楽しみにしてなかった?」
楽しみにしていた。決まってる。
昨日の夜は楽しみで中々寝付けなかった。
言い訳をしなければと、頭の中をフル回転させて、言葉を探す。
「…あー、エレベーターの中に、知り合いがいて」
「ふーん?」
昔どこかで聞いたことがある。
隠したいことがあるときは、あえて嘘はついちゃいけないんだと。
「苦手な人でさ、見つかったらちょっと気まずくて、おりちゃった」
どうして、普段は人の話を真面目に聞かないのに。
聞いてほしくない時に、目を見てくるんだろうか。
探るようにその両目で見られると、全てを見透かされた気持ちになる。
視線が合わさったその時間は、実際には一秒にも満たなかったはずなのに、ひどく長く感じて。五条が視線をはずして、なまえはようやく息を吸えた気がした。
「なまえに苦手な人なんていんの?」
「そりゃいるよ。例えば五条悟って人とか」
「タイプな人間の間違いだろ」
「ぐっ…顔だけだから!調子乗んな!」
悔しいことに、本当に顔はいい。顔はいいのだ。
そんな綺麗な顔に、彼はいつもみたいな嫌味な笑顔を浮かべる。
そんな笑顔を浮かべる時は、いつもろくなことを言わないと、なまえは警戒するが。
そんな彼女の様子も気にせず、五条が右手の平を、唐突になまえに差し出す。