第1章 出会い
これほどの地獄がかつてあっただろうか
周りにもこの激しく打ち鳴らされている心音が聞こえているのではないかと、不安げに周りを気にしながら彼女は歩いていた。
その数歩斜め前には、黒髪の目つきが決してよいとは言えない強面の男性が歩いており、その男性こそが彼女の記念すべき高校生活の担任だということが更に彼女を絶望させた。
ー 終わった…高校生活、終わった… ー
何度目か分からない呟きを、彼女… みょうじ なまえは心の中で漏らした。
そもそもは、入学式前日にインフルエンザに感染したのが全ての始まりだった。
若干季節はずれのそれに、入学式欠席を余儀なくされ、登校許可がおりるまでに1週間がかかった。
たかが一週間、されど一週間。
高校という新しい晴の舞台で、人間関係を築くのは何より最初の一週間が大切なのだ。
一週間あれば、ある程度のクラスメンバーを把握し、それぞれの性格に合ったグループがポツポツとできているだろう。
そんな環境に1人今から立ち入ると考えただけで… なまえはぶるりと身を震わせた。
ただでさえ、彼女が入学する学校は普通とは違うのだ。
『東京都立呪術専門高等学校』
表向きは宗教関係の私立学校となっているが、実態は異なる。
人知れず世に蔓延る呪いを祓う人材の育成を目的とした学校だ。
彼女はその力を認められ、無事入学の許可をもらい、初めての東京と学校に心を高鳴らせていたのだ。つい一週間前までは。
ー 友達づくりも、恋愛もがんばろうと思っていたのに… ー
頼みの綱であった担任の先生も、職業を間違えたのではないかと思うような雰囲気と顔。
一言二言話すと、すぐに教室へ向かうことになった。
せめて、せめて笑顔で、第一印象を…!
祈るような気持ちでいるなまえの前で、担任の夜蛾正道が足を止める。
初めて名前を聞いた時、名前まで極道かよと思ったのは内緒だ。
「ここが一年生の教室だ。紹介するから中に入るぞ」
「はいっ」
笑顔で笑顔で笑顔で…と、呪いのように心で呟きながら、教室のドアを開けた彼女の目の前に飛び出してきたのは、
パンパンっ!!
「っ!?」
鼓膜を震わせる、音と光。
なまえの教室への第一歩は、そのまま床を滑ってお尻を床にぶつけるところから始まった。