第14章 高専
「言われてみれば、俺もだな」
「しゃけ」
知らないところで私の知名度が上がっていたのかと、考え込む3人を、無言で見つめるなまえ。
あっ、と。真希が思い出したように顔を上げた。
「去年の夏の肝試し」
「うん?」
「こんぶ」
「高専近くの墓地でやったやつ」
「あー」
「ツナマヨ」
「パンダが驚かせた拍子に、供えられてた饅頭ひっくり返した墓」
「「!」」
瞬間、何かに合点が言ったように、大きく目を見開いた2人は、素早く真希の背後へと隠れるようにして回った。
何が起きたのかと目を白黒させるなまえ。
「おいっ、てめぇらふざけんなよっ!私を盾にすんな!」
「すまん、悪気は無かったんだっ。成仏してくれ!」
「しゃけしゃけ!」
「いやあの…どうしてそうなったのか分かんないけど、私生きてますが…?」
11年間は死んでたみたいだけどと、恐らくより場を混乱させるだろう言葉は静かに飲み込む。
だが、呪術師のくせに人のことを幽霊扱いして、怯えた様に手を擦り合わせるパンダ達に、どう収集をつけようかと首を傾げていると。ガチャリと、ドアの開く音が耳に届いた。
「3人とも、うるさいよ。治療終わったならさっさと授業に行きな」
凛とした声が響く。
そういえば、ここは医務室のすぐ近くだったと思うなまえの前に、黒髪を長く伸ばした、スラッとした体格の女性が現れた。白衣を着た彼女の右目の下には特徴的な泣きぼくろ。そして、どこか気怠げな歩き方。
ああ、きっと、そうに違いない。
記憶にある彼女とは、もしかしたら違うところの方が多いかもしれない。それでも、そうだと思ったのは、理屈じゃなかった。
ふと、彼女の視線が、目の前の3人から、ゆっくりとこちらへ移動する。そして、眠たげだったその目が、大きく見開かれた。
「なまえ…?」
やっぱりそうだ。
すっかり大人の女性になってしまった、彼女。つい数日前まで、夏油のことで落ち込む私の側に黙って付いていてくれていたのに。
なんて声をかけよう、呼び捨てにしてもいいのかな、なんて。
「えっと……硝子、」
久しぶり、と。彼女の時間軸に合わせてかけようとした言葉は、正面から勢いよく抱きしめられて、最後まで言うことができなかった。