第13章 再会
呟いた言葉は、途切れた。
少しずつ冷静になってくる頭で、彼女の顔をよく見れば、良いとはいえない顔色に、やつれた頬。
こんなにもひどい状態のなまえを、彼は知っていた。
彼女がいなくなってしまう、直前の姿だ。
「…ちょっと場所を変えようか」
気づいてしまえば、彼女をいつまでもこんなところに立たせておく訳にはいかないと思った。むしろ何故、あの時の自分はこんな状態の彼女に詰め寄ることができたのだろうか。子供(ガキ)でしかなかった自分に、吐き気がする。
彼女の腕を掴んだまま、自らのマンション前までトベば、突然変わった景色に、なまえが戸惑っているのが分かった。
恐らくあまり状況が把握できていないだろう彼女の腕を引けば、流されるようにマンションへと足を踏み入れる。
「え、ちょ、あの、ここ、どこ…?」
「僕の家だから大丈夫」
「へ…?」
惚けた声を出すなまえが、彼の心を柔らかくする。ふと、歩いていた彼女の表情が歪んだことに気づき、五条はすぐに足を止めた。
「大丈夫?」
覗き込めば、驚きに丸く見開かれた黒い瞳が彼を見返す。思えば、これだけ顔色が悪いのだから、それが体調に現れていてもおかしくないのだ。
「どっか痛い?」
「あ、の………ちょっと、頭が…」
問い掛ければ、すぐに返事があった。
あの日の彼女も、そうだったのだろうか。一言、こうやって声をかけていれば、答えは簡単に得られたのに。あの時の自分は、そんなことにすら気付いていなかった。
いったいあの頃。自分はいくつのことを見落としてきたのだろう。なまえのことも、傑のことも。
彼女の掴んでいた腕をそっと離して、軽い体を抱き上げれば、「うわっ!?」と叫んで小さなその体が五条にしがみ付く。
また痛みがあったのか、顔を歪めた彼女に申し訳なく思いつつも、こちらの方が負担が減るだろうと足早に自らの部屋へと向かう。
「あ、ああ、あの?」
「うん、ちょっと待ってね」
抱き上げれば、実感する。
やはり彼女は、ここにいる。間違いなく、生きて、ここに。