第2章 初授業
「先生、話ってなんですか」
一年生4人のゲーム大会を前に、担任の夜蛾に呼び出されたなまえ。
本音を言えば、初日の今日は疲れたからぐっすり休みたいところだが、打ち解けてきた同級生達と、もう少し話をするのも悪くないとは思った。
なまえの呼びかけに、顔をこちらへと向ける夜蛾。
まだ、付き合いというには短すぎる時間しか顔を合わせていないなまえには、その表情が何を意味しているのかは想像できなかった。
「なまえお前…イカレてないな」
重く紡がれた言葉に、褒められたのか?となまえの頭に疑問符がつく。確かに、あのクラスの中では常識人である。間違いなく。と本人は自負している。
そんななまえの感情が顔に出ていたのか、夜蛾は首を横に振った。
「違う。お前が想像してるようなんじゃない。私が言いたいのは、お前が呪いを祓う時に抵抗を感じているということだ」
夜蛾の言いたいことが理解でぎず眉を寄せるなまえに、彼は続ける。
「他の3人はな、イカレてんだよ。異形とはいえ、生き物の形をした呪いを、躊躇わずに祓いにいける。でもな、なまえ。お前は、イカレてない」
ああ、そういうことかと、そこでなまえは理解した。
ばれていたのだ。実地訓練をしている際の、緊張も、手の震えも、冷や汗も。
「生き物の形をした呪いを祓うことに、抵抗を感じてる」
普通、そうだろう。
誰だって、そのはずだ。
生き物を殺す、その感触に、光景に、罪悪感や恐怖、抵抗を感じる。
人として当然のその感情が、ここでは、求められていない。
「…以前より、マシになっています。吐かなくなったし、最後までちゃんと祓えるようになりました」
「そうか。だがな、俺は才能があっても、そっちが割り切れずに辞めていった呪術師を何人も見てきた」
克服できるものなのか。できないのか。
分からない。それでも、繰り返すことで慣れてきているのは確かだと感じていた。
これは、罪悪感を覚えることではないのだ。
「まぁなんだ。だから辞めろなんて言うつもりはない。ただ、自分はイカレてないってことを忘れるな」
「……はい」
イカレていることが、才能だなんて。
知らず、下唇を噛み締めた。