第10章 変化
彼の軽口に、返事がない。眉を寄せる五条の肩を、ポンと叩いて夏油が先に歩いていく。なんだよと、視線を向けるが、夏油は振り返らない。
その場に取り残された五条となまえ。俯き加減の彼女を見て、とりあえず歩み寄る。いつものようにその頭に腕を置こうとして、服が血で汚れていることに気付き、寸前で止めた。その腕を、彼女が掴んだ。
「…、死なないでよ…」
泣きそうな顔が、五条を見た。
彼女は、気付いたのだ。彼のその姿を見て。失いかけたのだと、気付いて。怖くてたまらなくなった。
当たり前に存在する仲間が、当たり前ではなかったのだ。
今にもその瞳から涙を溢しそうなくらいに潤ませて。そんな彼女の頭に、今度は躊躇うことなく手を置いた。
「はいはい。我儘な仲間を持つと大変だよ」
「死んだら化けて出てやるからっ」
「お前が化けて出んの?」
反対じゃんと笑う五条に、なまえはまた泣きそうになった。本当に、もうこんなやり取りもできなくなるのかと思ったのだ。
頭をぐしゃぐしゃと撫でる五条は、ニッと笑った。
「だいじょーぶ。今俺、何でもできそうなんだよね」
ふと、その時。
ただただ彼の生還を喜んでいたなまえは、違和感を感じた。
気のせいかもしれない。そうやって流してしまえるぐらいに僅かだったけれど。
五条悟が、少しだけ。
少しだけ、変わってしまった。そんな気がした。