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炎雷落ちるその日まで / 鬼滅の刃

第59章 2人の炎をあたためて ✳︎✳︎


「かわいくて愛らしい君も、綺麗で麗しい君も、俺は大好きだ」
「んっ……」

左頬をゆっくりと撫でられた私に彼からの優しい口付けが届いた。
いつもならば、ここから唇同士での愛撫が始まるのだけど、今日はそうではないようで、ゆっくりと私の唇から温もりが遠のいていく。

「たまには趣向を変えてみないか?」

「えっ?趣向ですか?」

「ああ、君との時間をより濃厚にしたい」


濃厚………何をするのだろうか。雀の涙程の怖さがあるけれど、それと相反して自分の胸の鼓動は高鳴るばかり。
私の部屋に置いてある自分の着流しに袖を通した杏寿郎さんは、少し待っていて欲しい…と告げて廊下に出た。


5分後、恋人が戻って来る。
彼は右手に小皿を持っていた。一度文机に置いた後、着ていた着流しを脱ぐ。再び私の鼓動がドクン、と跳ねた。

『何を持って来たのかな……?』
そんな感情が顔に表出していたのだろう。

安心させるように私の頭をよしよしと撫でた彼は、文机に置いてあった小皿を手に取ると私の目の前に差し出す。そこには黒い液体が、うずらの卵1個分程のせられていた。

『醤油……?でももう少しサラサラしてるよね。こんなにとろっとしていないはず』

恐る恐る顔を近づけると、何だか甘い香りがする。


「これ……黒蜜ですか?」

そうだ、と頷く彼の双眸に見慣れた感情が加わっていた。
2人で過ごす深い時間が始まると、杏寿郎さんは優しさと一緒にもう1つ感情を表してくる。


「甘い七瀬をもっと甘くしたら、どうなるのか気になってな」
「え……あの、それって……あ……ん」

悪戯心、加虐心。要は意地悪をしてくるのだ。



ぬるっとしたかたまりが鎖骨に落とされた——かと思うと、横にスー…ッと彼の右人差し指がゆっくりとそれを伸ばしていく。


「うむ、こんな物か」

まずは小手調べ。そう言わんばかりに塗り終えた恋人は黒蜜がまだ残っている人差し指を私の口に入れ、自分は顔を鎖骨に近づけた。

温かい彼の舌が丁寧にそこを辿って行く。小さく声と吐息が漏れた。

「はあ……やはり甘いな…七瀬は……」

「んっ……きょ、じゅっ……ダメで……」

「君の“ダメ”は……んっ、肯定………と」

“みなす”


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