第57章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎

「無一郎くんと勝負した日にね、杏寿郎さんにどんな柱になりたいかって聞かれたの。考えた事ないって私が伝えたから、そんな風に言ったのかもね」

「そうでしたか……」
「うん」

湯呑みに入っていた麦茶をゴク、ゴク…と全て飲み干した。
そうしておぼんに置くと、私も話を切り出す。

「杏寿郎さんの焼き印の事は聞いた？」

「あ、はい……。日中の間だけ、掌に浮かび上がっているとしかお聞きしてないですが。どうかされたのですか？」


今朝の緊急柱合会議での事をかいつまんで、千寿郎くんに話していくと私達を包む空気が重くなっていき、目の前の彼の顔もだんだん青ざめていく。



「そう……ですか。そんな強い血鬼術がお2人に……」
「うん。槇寿郎さんにもさっき話をして来た」

「…………帰宅した時、杏寿郎さんの前では”私が喰わせたりなんかさせない”って言ったんだけどね」
「はい……」









「杏寿郎さんには絶対に言えないから、ここで言うね。本当は凄く怖いの。もし杏寿郎さんを失ったらどうしよう、自分に出来るのかな……って」

「…………」

「私を信じてるって言ってくれたから、奮起して頑張ろう……その気持ちには変わりないんだけど……とにかく怖くて」

「ごめんね、弱音吐いて。自分の中だけで留めておくのは少ししんどいなあって思ってて……」



「七瀬さん」
「なあに？」

すると、千寿郎くんが自分の両手で私の左手を包んでくれた。
右手も左手も掌の皮が厚くなっていて、豆もたくさん出来ている。

その手は私や杏寿郎さんと同じ。立派な”剣士”の手だった。



「俺も信じています。七瀬さんは必ずやり遂げると」
「千寿郎くん……」

「だから、大丈夫です！」
にっこりと笑う千寿郎くんが、この時私の目にとても頼もしく映った。