第50章 父と息子の初炎武(えんぶ) 〜二人の炎柱〜 +
「杏寿郎!」
ブン、と上段から槇寿郎が木刀を振り下ろすと、名を呼ばれた杏寿郎が自分の木刀の鍔で太刀を受けとめた。
そこから父が押せば、息子も押し返す。
互いに一歩も譲らぬ鍔迫り合いの状態だ。
今この瞬間 —— 父と子の間にあるのは同じ感情が通っており、同じ日輪の双眸を持つ二人の視線が絡み合う。
「俺とて同じだ。成長したお前とこうして戦える。この上ない幸せだ」
瞬間、槇寿郎は後ろに体を引いて、その場から距離を取る。
ふうと短く息をついた元・炎柱は、木刀を大きく振るう仕草を見せた。
『あれは……!』
杏寿郎は父が何を放つかを瞬時に理解し、口元を真一文字に固く結ぶと、木刀を握っている両手にグッと神経を集中させていく。
足元からじわじわと上昇して来るのは、自分の中で絶えず燃焼している熱い灯火である。
「伍ノ型 ——— 」
杏寿郎が大きく木刀を振るうと、彼の後方から姿を現したのは大きく口を開けて咆哮する虎だ。
【炎虎】と呼ばれているこの型は、不知火と並ぶ杏寿郎の得意とする技で、継子の七瀬を毎回仕留めている物である。
槇寿郎が放った型も同じ炎虎であり、両者の虎は激しくぶつかりあった。
ゴウゴウと二匹の虎が互いの炎を喰らい尽くす中、次の一手を放つべく杏寿郎と槇寿郎は素早く地を蹴り ———
ガン!! と木刀が強く当たると、再び鍔迫り合いの状態になった。
ギリギリと押し合うやりとりがしばし続く中、二人の双眸が再び合わさる。
『何とかここまで来たが……先程の連撃の反動か…!』
槇寿郎の額と首がじわりじわりと汗で滲むのを間近で把握した杏寿郎は、一度後ろへ体をひいた。
木刀を左下段から掬い上げるように振るうと、槇寿郎はそれを何とかひるがえす。
よし、防いだ。
彼が一瞬安堵した次の瞬間、ミシっと木刀に衝撃が走った。