第26章 蟲柱、胡蝶しのぶ +
「炎の呼吸・壱ノ型 —— 改!! 」
不知火の二連撃が、暗い夜を明るく眩く照らした。
「ギャァ!! 」
そして緋色の閃光に焼かれた鬼は、土の塊と共に粒子へと姿を変えていく。
杏寿郎はふう…と一つ息をつくと、炎が纏う己の太刀を右下に振るって血飛沫を飛ばす。そして静かに鞘へと納刀した。
「炎柱様、申し訳ありません……! 私の驕りのせいです」
「大事ない! 見た目程ひどくはないぞ」
「でも……」
「君に怪我はないか? であれば何も問題ない!!」
女隊士は杏寿郎の破れた隊服から見える、真っ赤な火傷を確認するとひたすらに頭を下げた。
「炎柱様、隠が来るまでの簡単な処置をして良いですか? 俺、鬼は倒しましたので」
「何と! 早かったな!」
男隊士は水が入った竹筒と、懐から手拭いを手に杏寿郎と女隊士がいる場所までやって来ると「失礼します」と声をかけ、傷口に水を数回かけた。
女隊士には平気だと伝えたものの、実際にはジンジンと体に響く痛みが先程からある。
かけられた瞬間 —— ほんの少しだけ眉間を歪めた杏寿郎だが、男隊士の処置の手際が迅速だった為、それは僅かな時間ですんだ。
「炎柱様がこっちに移動する前、斬撃を二体に放ってくれましたよね? あれで大分鬼達が弱ってくれたから、いつも通り型を放つだけで済みました」
「そうか、であれば良かった! それから手当もありがとう! 幾分か楽になったようだ」
「いえ、俺は本当に出来る事だけしかしていないので…申し訳ないです。おい、お前もここ血が出てるぞ!」
「あ…うん、今気づいた」
男隊士は女隊士の左手の甲をちらりと確認すると、杏寿郎と同じように竹筒に入った水をかけてやった後、手のひらに収まる大きさに入った透明の軟膏を彼女に渡した。
「これあと少ししかないから、やる。塗っとけ」
「ありがとう……」