第21章 上弦の月と下弦の月 ✴︎ 〜 茜色の恋、満開 +
十一月中旬を少し過ぎたばかりの、とある一日。
畳敷きの座敷の一番奥に、一段高くしつらえられたご座所がある。
御簾(みす)の代用として、薄い布の膜が貼られており、そこには「極楽」と記されたお札が何枚も貼られていた。
ここは”万世極楽教”と名付けられた宗教施設である。
「やあやあ、よく来たね。待っていたよ」
「俺に何の御用ですか?…童磨様」
時刻は太陽が先程沈んだばかりの午後五時半。
室内は天井からランプが一つ吊らされているだけで、薄暗い。
童磨と呼ばれた男は、綿がたくさん詰まった大きな座布団の上にあぐらをかいている。
腰まで伸びた白っぽい長髪の上から血を被ったように、真っ赤な色が広がっており、虹色の双眸の中央には左に “上弦” 右に “弍” の刻印が刻まれている。
対し、童磨のすぐ近くに片膝を付いている男の名は夕葉(ゆうは)。
薄暗い部屋に溶け込む群青色の着流しを着用し、小作りの顔は白くきめ細やかな肌だ。
スッとした曲線で形成されている鼻の上には、夕暮れを思わせる茜色の双眸。そして左の眼球には “下 壱” の刻印。
「俺も君も、女を喰うのが好きだよね。物凄く」
「そうですね。童磨様には負けますが」
「うん?そうかな。良い勝負だと思うけど」
「でしたら、俺はもうとっくに上弦になっているんじゃないですか?」
この部屋に入室した時から、舐め回すような視線をよこす童磨に怯まず、ニヤリと笑って見せる夕葉だ。
二人は鬼舞辻無惨によって鬼にされた元・人間である。
今しがた夕葉が発言したように、童磨は上弦の鬼。位は上より二番目だ。下弦の中では一番上の夕葉だが、彼の上には六人の鬼がいる。
その中の一人がこの上弦の弍だ。
「ここ一週間さあ、俺が標的にした女達がみんな喰われているんだよ。心臓だけ綺麗に抜き取られて」
「そうですか。それはお気の毒……」
「夕葉」
「何でしょう」