第1章 始まりの夜
ぐるんっと自分の視界が逆さまになる。
「ぅ…え…っ」
急な視界の逆転で既に限界を迎えていた体は悲鳴を上げ、少女は嘔吐していた。
ケガをした足をつまみ逆さ吊りにした鬼は、顔の前に少女を持ち上げる。視界の回転の影響で小刻みに揺れる瞳から額へと流れる涙をみて楽しそうに笑った。
「泣くなよ~、もうすぐ家族に会えるんだぞ~?…おっと」
舌なめずりをして長い爪を少女の頬に滑らせた鬼は、裂けた頬から血が流れだすのを舌で掬い取る。
「…父…さま…母さ…ま…月哉…」
(会いたい…早く殺して…)
ー水の呼吸 弐ノ型 水車ー
「…っぐあぁあ…!!」
鬼の叫びとともに、突然宙に放り出された少女はうつろな目で空に浮かぶ青白い月を見つめていた。