第17章 生家
「やはり、時間が経ち過ぎてよく分かりませんね」
煉「うむ!樹皮も乾いてしまっているな!」
藤の幹に触れながら杏寿郎は頷く。根本に座り込んで樹皮を観察する月奈は、乾燥してめくれている樹皮を採取する。
「穴も複数空いていますね、やはり虫を寄せ付けてしまうような薬品だったのでしょうか」
樹皮を採取しても、成分を調べることができるかは分からない。でも、ここまで来た理由の一つなのだ、少しでも何か分かれば。という気持ちで月奈は樹皮の一つを持ってきた小瓶に入れて封をする。
煉「そうだな、蒼樹は植木屋だったということを考えれば、月奈の弟に与えた薬品は藤の花を枯らす的確な方法だったんだろう!」
完全に枯れてしまった藤には、もう虫は見向きもしない。この藤に群がっていた沢山の虫たちは次の寄生木を探して別の木に移ったのだろうか。
(まるで私みたい。縋るものが無くなれば別の場所へと移っていく)
「これをしのぶさんにお渡ししたら調べて貰えます。分かっても、もう何も戻らないのですが…」
苦笑した月奈に、「家に帰ろう」と杏寿郎が手を差し伸べる。手を重ねると緩く引っ張り上げられ立ち上がった。
更地にするならば、全ての物が土に還る。枯れ果てるまで自分を守ってくれた藤の木も土になる。
ざらりとささくれだった幹を撫でた月奈は、一瞬目を閉じて何かを呟いてから杏寿郎に向き直った。その表情はいつも通りの笑顔だ。
「帰りましょう!お腹、減りましたね」
朝餉を食べて藤の家を出た以降、何も食べていないことを思い出したからだろうか。杏寿郎のお腹が鳴る。
煉「街によって何か土産を買いがてら、団子でもつまむか!」
「ふふ…そうですね!」
カバンに形見や樹皮の入った瓶を詰め込むと、二人は煉獄家への帰路についた。