第17章 生家
鳥のさえずりが外から聞こえ、目を開いた月奈は障子の外が明るくなっていることに気付くと欠伸を一つ。
(朝になったのね。今朝は少し冷えるわ、布団から出るのが億劫になっちゃう)
もぞもぞと布団を引き上げ潜ると背中の温かさに再び微睡み始める月奈の背後から眠たげな声が聞こえ、微睡みかけた頭が急速に覚醒する。
煉「おはよう、もう起きたのか。早いな」
(えぇっと、背中が温かい理由は杏寿郎様ということで間違いないわよね)
「お、おはようございます。状況がよく呑み込めないのですが…?」
煉「昨夜湯あたりした月奈を寝かしていたら俺もつい眠くなってな!…あぁ、こちらを向くな左肩の傷に障るぞ」
振り向こうとした月奈は杏寿郎の制止により前を向くしかなくなる。湯あたりで迷惑をかけたことを申し訳なく思った月奈は、一つ疑問が浮かぶ。
「足湯で湯あたり?」
月奈の口から出た言葉に、腰に回していた杏寿郎の腕がピクリと反応を見せた。振り向けないので表情は分からない。
(露天だから足湯だけで湯あたりなんてしないはずなんだけれど…まぁいいっか)
「今朝は少し冷えますね。温かい布団から出たくなくなります」
昨日の会話を思い出していない様子に杏寿郎はホッと胸を撫で下ろす。思い出されたらしばらく口を聞いて貰えないかもしれないのだ。
煉「もう少し眠るといい!今日は昼前にここを出発しよう」
「昼前出発ならば夕刻前には煉獄家に戻れますね!」
煉「家に戻る前に、月奈の生家に寄ろう!ここから然程遠くはないはずだ!」
「本当に遠くない距離だったのですね。藤の花の家紋の家のお話を聞いたことは無かったのですが…」
鬼殺隊に助けて貰った過去がある藤の花の家紋を門に描いた家は、その恩を返す為に無償で宿や食事を提供している。その家の存在すら月奈は聞いた覚えが無い。
煉「鬼殺隊は特殊な組織だからな、それも関係して話に上ることはなかったんだろう!鬼狩り、という言葉は伝承のように伝わっているようだがな」
(なるほど。政府の公認ではない鬼殺隊の話は通常、話には上らないものなのね。だから聞いたことがなかったんだわ)
「あれ、そういえば…私が鬼に襲われたあの日、この付近で任務があったのですか?」