第15章 覚悟の始末方
処置の間、窓の外へと視線を逸らしていた杏寿郎はしのぶの声かけに振り向いた。しかし、上半身を包帯だけで覆った月奈を見て再び視線を逸らしてしまう。
煉「手順は覚えられるが、やはり完治するまで入院がいいと俺は思うぞ胡蝶!」
し「だそうです、月奈」
入院着の前釦をしっかりと留めながら月奈は苦笑する。確かに傷だらけの見苦しい体を見たくはないだろう、と。
「今回の傷も酷いので、更に見苦しい体になってしまいました。消毒の度に体を見るのは嫌でしょう。それは当然です」
煉「そういう意味では無いぞ!いくら恋仲といえど婚約もしていない身で肌を見るのは良いことではないだろう!」
し「あら、やはり恋仲にはなっていらっしゃったのですね」
(そういえば誰にも恋仲になったことを話していないんだわ。…ん?やはり?)
「しのぶさん、恋仲になったという報告は誰にもしていないのですが気付いていらっしゃったのですか?」
勿論。としのぶは頷いて杏寿郎に視線を向けたが、杏寿郎は入院着をしっかりと着直した月奈に弁明している。それを右から左へと聞き流しながら月奈はしのぶに問いかけた。
し「煉獄さんが分かりやすいのですよ。大分前から不死川さん達も気付いてましたよ、煉獄さんが月奈に懸想していることは。気付いていないのは月奈だけだったのでは?」
煉「よもや!俺はそんなに分かりやすいのか、困ったものだな!」
「杏寿郎様が分かりやすかった?そうですか?」
片やハハハと声を上げて笑うことで恥を誤魔化す人間と、片や心底分からない、とでも言いたげな表情で首を傾げる人間。
ー〔鈍い〕とはこういう人達のことを表すのでしょうか。それにしても…
し「恋仲になったことを知っているのは私だけなのでしょうか?」
煉「今の所はそうだな!」
それを聞いたしのぶはチラリと月奈に視線を送る。月奈は掛け布団に止まった一羽の蝶をニコニコと眺めている。庭から部屋へと迷い込んだのだろう。
「あくまで恋仲なので、公にしたくないという私の希望を煉獄家の皆さんが理解してくださったのです」
し「そうですか。では私も吹聴するようなことはないように気を付けましょう。そうは言っても、宇髄さん辺りは察しているのでは?」