第15章 覚悟の始末方
し「そうですね、私も最愛の姉や両親を鬼に殺されたことを忘れたことはありません。後悔はいくらでもあります。記憶はいつも私達の為に働いてくれるわけではありません。辛い記憶に苦しめられる時もこれから先あるでしょうね」
しのぶが優しく微笑んだ。姉や家族を殺された記憶に苦しめられる時も多くあっただろうこの女性がどうしてこんなに穏やかに笑っていられるのか月奈は不思議に思う。
し「ですが、人は支え合って生きているものです。鬼殺隊の隊士達は鬼に家族を殺された者も多いですから、分かち合えるのです。理解者が多いということですね」
傷の舐め合いと言えばそれまでですが、としのぶが苦笑するが、気持ちを分かり合える人がいるということがどれほど嬉しいか今まさに月奈は感じているのだ。頷くしか出来ないほどに納得させられる。
し「それに、今の月奈には一番傍で支えてくれる方がいるのですから、その方に甘えればいいのです。少し悋気が強いようですが、蒼樹という男性の記憶も分かち合ってくれるのでは?」
「甘えてもいいのでしょうか。負担になってしまうのでは…せめて今はご自分の事だけを考えてもいいのにといつも思うのです。今までご家族のことばかり考えていらっしゃったので」
ー甘えても貰えず、他の男性の事を考え続けられるほうが煉獄さんは嫌でしょうね。
さすがにそう思ったことは言わず、しのぶは月奈の手を引いて脱衣所へと向かう。新しい入院着が準備されていることを確認して、月奈に着替えるよう促すとしのぶは廊下に出て杏寿郎を呼ぶ。
煉「様子はどうだ?」
気を遣ったのだろう、脱衣所からは少し離れた場所で待機していた杏寿郎がしのぶの元へと歩み寄る。熱は先程よりも少し落ち着いて来ていると伝えると、杏寿郎がホッとした表情を見せた。
し「まだ傷口が塞がるまでは、熱発を繰り返すかもしれませんが、お話は出来るようになっていましたよ」
煉「そうか!いや、しかし、まだ事の詳細を聞くべきではないのだろうか…」
あら、としのぶは口元に手を当てる。そのような気遣いを見せる杏寿郎が珍しかったのだ。
し「月奈が話したければ話すでしょう。自身が一番体の状態を把握できますからね」
そうだな!と杏寿郎は納得して大きく頷いたと同時に、脱衣所から月奈が出てきた。