第13章 気付き
「釣書?」
蝶屋敷で未だ療養していた月奈は自分の病室でお菓子を頬張りながら不思議そうな声を上げている。釣書、いわゆる身上書とも言われるもので縁談のために書かれた物だ。
し「えぇ、普通は家と家でのやり取りになるのですが…」
月奈自身、それなりの家柄だったので釣書の存在は知っている。しのぶの手には数枚の釣書があるので、送られた人間は良い人間なのだろう。
「すごいですねぇ、しのぶさんに送られてきたのですか?」
し「いえ、それが…」
宇「おーい、月奈。見舞いに来たぞ」
何かを言いかけたしのぶは、入室してきた人物に目を向けると、口を閉じてしまった。入ってきたのは天元と嫁三人だった。
「天元様!それに雛鶴様たちも!ありがとうございます」
雛鶴たちは包帯が取れてガーゼで覆われるのみになった左目を見て「痛かったね」と頭を撫でてくれる。天元はしのぶの手から釣書を奪い何かを話している。
宇「おい胡蝶は何持ってんだよ!…なんだ、全部男の釣書かよ、胡蝶宛か?」
し「宇髄さん、人の持ち物を勝手に取らないでください。誰宛の釣書かなんて関係無いでしょう」
須「えー!胡蝶様に釣書!?」
面白い話題を見つけたとばかりに須磨がしのぶと天元のもとに走り寄る。ここは病室、走り回る・騒ぐなど推奨されないことばかりをしている須磨はまきをに捕まっていた。
ま「すみません、胡蝶様。ほら、月奈のところに行くよ!」
ずるずると首根っこを引っ張られていく須磨に、しのぶはなんとも言えない表情で見送る。天元の嫁の三者三様具合が凄いので圧倒されてしまうのだ。
宇「あ、でも胡蝶宛ならそもそもここに持ってきてないってことになるよな…まさか月奈宛か!?」
そう言った瞬間にしのぶの肘打ちが天元の脇腹にヒットした。鍛えている天元相手に痛手を負わせることはできないことは百も承知だ、だからこそ通常より力を込めてみた。が、天元は涼しい顔をしている。
「え、それって私への釣書だったんですか?」
し「…煉獄さんの耳には入れないようにしてくださいね宇髄さん」
月奈に微笑みを向けたまま、隣に立つ天元に小声で忠告するしのぶ。
宇「あー…でも派手に発破かけた方がいいんじゃねぇか?いい加減進展しねぇの?」
しのぶ同様、小声で囁き返す天元は溜息をつく。