第12章 失ったもの
し「月奈、具合はどうですか?」
病室に入ってきたしのぶは、ベッドの上で暇そうにしている月奈に微笑みかける。月奈は瞼と腕の切傷により蝶屋敷に入院していた。
「しのぶさん!おかげ様で大分具合が良くなりました!他の方はどうですか?」
「他の隊士達も回復してきていますよ。特に炭治郎君達の回復力は目を見張ります。伊之助君はしばしば厨房に盗み食いに侵入してアオイに怒られているようですし、善逸君は…相変わらず騒がしいですよ」
あぁ、我妻様ね。と月奈はいつ見ても賑やかな金髪の男の子の姿を思い出し苦笑いを浮かべる。包帯を解いて患部の様子を確認したしのぶは安堵の表情で包帯を巻きなおすと、経過の問題はありませんね。と頷いた。
し「そうそう、月奈に一つお知らせです。一緒に付いてきてください」
ニコリと微笑んだしのぶに首を傾げながらも、差し出された手を握りベッドから立ち上がった。
(どこに向かっているんだろう?)
しのぶに手を引かれるまま廊下を歩く月奈は、久しぶりの蝶屋敷の空気に懐かしさを感じていた。目まぐるしく過ぎる日々で、蝶屋敷で世話になったことが遥か昔に感じてしまう。
(世話になりっぱなしだけれど…今もそうだわ)
未だに左目は包帯で覆われているため、平衡感覚や距離感が狂ってしまっている月奈は、手を引いて貰っているから壁等にぶつからずに済んでいる。
千「月奈さん!」
し「あら、煉獄家の方々がおいでになりましたね。まだお伝えしてなかったと思うのですが…」
「千寿郎さん!槇寿郎様!!」
繋いでいない手をぶんぶんと振った月奈は、しのぶの「そちらの手はケガしている方ですが大丈夫ですか?」と言われて青褪める。
「ぎゃっ!」
会えた喜びが勝っていたので痛みを感じるのが遅かった。包帯を巻いている左手は自分で傷つけた傷、あの時は加減などしていられなかったからか、治療の時に見た傷口は思ったよりも酷かった。
千「わぁぁ!月奈さん!大丈夫ですか!?」
走り寄ってきた千寿郎に涙目で微笑む月奈。槇寿郎は少し離れて呆れたような表情を浮かべている。
し「槇寿郎様、今鴉を飛ばそうと思っておりました。杏寿郎さんが先ほどお目覚めになられました」