第10章 潜入 *
それを言っちゃあ可哀そうだ、と楼主が内儀を嗜めると内儀は苦笑する。
「楼主さん、内儀さん、ありがとうございました。清花さんとは今朝少しだけお話が出来ました。私も、良くしてくださったときと屋の人たちと会えないのは寂しいです」
内「こんなにいい旦那様が迎えてくださるんだ。ここに戻ってきちゃいけないよ、幸せにおなり」
そう言って頭を撫でてくれた内儀の表情は、喜んでいる反面寂しそうだった。決して月奈はお金を稼いで見世に貢献した訳でもなければ、厄介ごとを持ち込んだ人間だ、それでもこうして愛情を持ってくれるのは、沢山の遊女の母のような存在だからだろうか。
煉「さて、では行こうか藤葉!」
楼「私達はこの部屋で見送るよ。そのまま出入り口から行ってくれ」
月奈は再度、楼主と内儀に深々と頭を下げてから杏寿郎の手を取り見世を出る。
外から見世を眺めると、大店というだけあって立派な建物だ。潜入する際には売られる女として俯いていた為見ていなかった。
「立派な見世ですね。男性が夢のような場所と謳う意味が分かる気がします」
宇「確かに夢、かもしれねぇな。でもお金で物事が片付く世界のどこが夢の世界なんだろうな…」
煉「お金で片付く、か。確かにここはそんな世界だな」
月奈は視線を前に戻すと、帰りましょうか。と二人に声をかける。穏やかな笑みを浮かべた二人とともに月奈は煉獄家へと歩を進めた。