第9章 穏やかな時間
「協力依頼?」
首を傾げた月奈の前でしのぶは風呂敷包みをほどいて中のものを広げた。それを見た蜜璃が同様に開いて見せる。
蜜「潜入に使うためのものだったのね。古い着物を数点持ってきて欲しいと聞いていたけれど、使えるかしら?」
し「粗末な着物であれば尚良しですが、やはりこちらで加工が必要そうですね」
立ったままの月奈に、着物をいくつか当てていくしのぶに蜜璃は首を傾げた。
蜜「月奈ちゃんに着せるならもっと良い着物を持ってきたのに、どうして古い着物を指定したの?」
し「着飾っては駄目なのですよ。粗末でいて、みすぼらしい装いでないといけないのです」
黙々と着物を選んでいたしのぶは、ある一枚の着物を手に取ると部屋から出て行った。
蜜「どういうことかしら、潜入に協力することは分かったけれど…みすぼらしくないといけない場所?でも月奈ちゃんを送り込む許可が下りていて、尚且つ師範と宇髄さんが潜入している場所?」
「…目立つな、ということでしょう。ですが、杏寿郎様や天元様は目立ちますよね…?」
考えても謎は深まるばかり、眉間の皺も深まったところでしのぶが戻ってきた、その手には土や泥で汚れた着物を持っている。
「先に潜入しているお二人はそれぞれの役割を担当しています。月奈はそれとは別の役割を担当してもらうことになっています」
蜜「危険な場所なの?月奈ちゃんに何かあったら悲しいわ。私達ではダメなの?」
し「今回はあくまで諜報活動のみです。目立ってしまっては意味がありません。それに年齢的にも月奈ならばなんとか大丈夫といったところでしょう」
(杏寿郎様と天元様がいらっしゃるなら命の心配はなさそうだけれど、しのぶさんや蜜璃さんの年齢ではダメって聞くと…)
「まさか…私、売られるのですか?」
あくまで任務ですから、お願いしますね。としのぶに申し訳なさそうな表情でお願いされて断れなくなってしまった月奈は諦めるしかなかった。
(あぁ、平穏な日常が終わった…任務頑張ろう…)