第9章 穏やかな時間
し「驚きましたね。無傷で最終選別を突破するなんて」
月奈は蝶屋敷の客間に座っていた。
いや、座りながら机に突っ伏している。その姿を見つめて呟くしのぶの周りにはアオイやカナヲも控えている。
ア「無事で良かった…無傷で突破といえばカナヲもそうだったわね」
視線を向けられたカナヲは、微笑んで頷く。
朝早くに杏寿郎に抱えられて蝶屋敷に飛び込んで来た時には、蝶屋敷の人間全員が悪い想像をしてしまった。
大ケガを負ってしまったのか、と。
しかし、覗き込んで見ると苦笑している月奈が「ケガも無く突破できました」と報告をしてきたものだから、抱えられて来たことに全員が首を傾げた。
煉「疲れているようだから抱えてきた!」
と杏寿郎が満面の笑顔で言い放つ後ろで、天元は腹を抱えて笑っている。
天「いや、それだけじゃねーだろ煉獄よぉ!あの派手な美人のせいだろ!」
「…とりあえず、下ろして貰ってもいいですか杏寿郎様?」
玄関で言い合いを始めた二人を余所目に、月奈はしのぶ達と客間へと向かったのだった。
最終選別の七日間は緊張状態が続いているので、さぞ辛かっただろう。座ってお茶を飲んで気が緩んだのか、すぐに突っ伏して眠り始めてしまった。
ア「…隠になることが決まると、隠専用の共同宿舎に入ることになるんですよね?」
し「えぇ、そういうことになるはずです。ですが、希望によっては宿舎外で暮らすことも可能と聞いています。あくまでも月奈の判断になりますね」
カ「宿舎外が認められるのであれば…月奈争奪戦が始まりそうですね?」
三人はチラリと視線を交わす。
争奪戦、望むところですね。としのぶは微笑む。
ア「ですが、相手が多すぎでは?」
し「そうでもありませんよ。冨岡さんのお屋敷は独りで住まわれているのでまず妙齢の女性を一緒に住まわせることは出来ません。宇髄さんはお嫁さんが三人いらっしゃいますからお邪魔はできないでしょう。…煉獄さんの所は男所帯ですが、選別前にしばらく住んでいましたから強敵となりそうですね」
カ「恋柱の甘露寺様は?」
ア「蛇柱の伊黒様と月奈は面識が無いから無理じゃない?」
し「そうですねぇ、まずは伊黒さんに気に入って貰うことから…そうすると、やはり蝶屋敷か煉獄家の二択ですね」