第11章 愛心
「睦ちゃんはいつも
たくさん食べてくれるからな」
…そう。
おじちゃんのごはんは大好きだから、
ついたくさん食べてしまう。
一人暮らしを始めてから
ごはんを食べない事がままあると
この人たちが知ったらそれはそれは驚くだろう…
そして心配するだろう。
片付けを終えたおばちゃんも戻ってきて、
「あら、睦ちゃんも今から夕飯?」
「うん、ごめんね。
食べに来たみたいになっちゃって…」
そんなつもりなかったけれど、
結果そうなってしまったのだ…。
「何言ってんの。
久しぶりに3人でごはんが食べられるなんて嬉しいよ。
さ、お茶でも淹れようか」
「おばちゃん!それくらいは私にさせて!」
台所に行こうとするおばちゃんを慌てて止めた。
3人で食卓を囲むのなんて、いつ振りだろう。
私は時間も忘れて、いろんな話をした。
そしていろんな話を聞いた。
この人たちに守られ切りだった時の事を思い出して
とっても幸せな時間になった。
…ごはんもおいしい。
おいしくて、食べすぎた。
「苦しいよー。おじちゃん、
ごはんおいしすぎるよ」
恨めしさに声を上げると
「あはは、睦ちゃんはたくさん食べたねぇ。
大丈夫かい?」
おばちゃんはカラカラ笑ってお皿を下げる。
…おばちゃんも、私なんかより
全然体力があるみたい。
私なんてもう動きたくないのに…。
「うまいもんをいっぱい食べて、
明日からの力にしなくちゃな!」
おじちゃんは私の肩をポンポンと叩いた。
そう、だよね。
現金なものでそんなふうに言われると
そんな気になってくる。
「うん。明日もがんばろう」
お店はお休みだけど、家の仕事は溜まってる。
一緒にいて元気をもらえる存在って大切だな。
…私、疲れていたのかなぁ…?
そんなつもり、なかったんだけど。
泊まって行けと言ってくれたおじちゃんたちの誘いを
丁重にお断りして、
私は1人、夜道を歩いた。
川のせせらぎがきこえてきて、
大桜が見えて来た。
この木を見るたびに、春が恋しくなるよ。
早く春になって、
あのきれいな花を見せて欲しい。
いつの間にか、
この木を心の拠り所にしていた。
何となく、太い幹に耳をつけてもたれてみた。
この木が生きている、
脈でも聞こえてくればいいのに。