第1章 嚆矢濫觴
「お父さんは警察に連れて行かれた。
極刑にでもなったのかもしれない。
私がダメな子だったばっかりに
お母さんもお父さんも、…死…んじゃったの。
私が殺したようなものでしょう?」
「違う!お前は何も悪くねぇだろ」
「どうして悪くないの?
私がもっと良く出来た子なら、お母さんもああならなかったのに」
ボロボロと泣く私の涙を拭いながら
「お前はダメな子なんかじゃなかったろうに。
今のお前を見てたらわかる。
上手にこなせていたろうに」
苦しそうに、
宇髄さんこそ泣き出しそうに言ってくれる。
…そんな顔をさせたかったんじゃない。
「私なんか、
誰かに好かれるような価値、ないと思うよ。
私を産んだ母親にさえ、愛されなかったんだから」
「違う。俺はお前が好きだ」
「私なんか死んじゃえばいいって思ってた。
あの時お母さんと一緒に、私の事も…」
「睦‼︎」
怒ったように大声をあげ、
私の肩を力任せにつかみ上げる。
驚きで、涙も止まった。
「てめェ、もういっぺんそんな事言ってみろ。
絶対ぇ許さねぇ」
憤怒の形相…
本気で怒っている。
つかまれた肩がいたい。
私の事を想ってくれる、その言葉が苦しい。
私は、再び溢れてくる涙を抑えられない。
「…死にたくなんてなかった。でも、
どうやって生きていたらいいのか、わからなかった」
「……睦…」
私の苦しみごと、
力いっぱい抱きしめてくれる。
おじちゃんにもおばちゃんにも
言えなかったこと。
なぜ、この人には言ってしまったんだろう。
…甘えてしまっているのだろうか。
会って間もない人間に、心を許しているのだろうか。
…私が?
「私の中はからっぽだよ。
一緒にいたってつまらないよ」
「お前がからっぽなわけねぇ。
そんなヤツに、あんなキレイなもん作れやしねぇ」
「…あれは、おばちゃんのおかげ」
宇髄さんは、私を抱き込んだまま
頭を撫でながら、
「おばちゃん…?」
不思議そうに訊く。
「私が1人にになってしまった時に、拾ってくれた人」
宇髄さんの、頭を撫でる手が一瞬止まる。
「…ヘェ」