第9章 好敵手
不死川さんは私の言葉も聞こえていないようで
どこか一点を見つめていた。
何かを考え込んでいるみたい。
「おめェみてェなヤツを、守るため…」
「…え?」
ボソッと小声で言ったソレを、私は聞き逃した。
「いや、自分のためか」
「自分のため…?」
「誰かのためが自分のためなんだよ」
…誰かのためが、自分の…。
誰かって、誰だろう。
家族、とかかな…。そうか…。
「やっぱり優しい人でした。
ねー、わんちゃん。あなたが好きになるのも頷ける」
次を強請るように
不死川さんを見上げているその子を盗み見た。
そして私も、おにぎりを頬張る。
それを見て、もう一口分を仔犬に分けてから
「いただきます」
不死川さんもおにぎりを食べてくれた。
…元気になぁれ。
仔犬の事を気にかけながら咀嚼する不死川さんは
ひと噛み毎に目を見開いていく。
「…うめェ」
もらした一言に心躍る。
今日のおにぎりは私特製の鶏そぼろを入れた。
おじちゃん直伝、
ごはんにめちゃくちゃ合う逸品だ。
甘めのそぼろは
不死川さんの口に合うに違いないと思っていた。
「おかずもあるので良かったらどうぞ」
お弁当箱を差し出すと、
その隅に入っているものに目を奪われている。
…おはぎだ。
たまたま。
本当に偶然。
「……どれでもどうぞ」
「…お前俺をどうするつもりだァ」
「え?どういう事ですか!失礼な」
「色々怖ぇ」
「それを言うなら不死川さんの方が怖いです。
私は朝からここに来てお昼を食べるって
決めてたんです。
不死川さんがいることの方が異色なんです。
ここには私、いつも来てたんですから」
「…おぉ、そうかよ…」
私が捲し立てるとそれに押されたような不死川さん。
「…そんな怖そうな顔で実は優しいとかずるいですよ」
「ずるいって何だよ」
「だって優しそうで優しいより、
怖そうで優しいときゅんとするでしょ?」
「…っ!」
不死川さんが戸惑ったような顔をする。
あ、また私、妙なこと言っちゃった…
「…へェ。お前よ。
本人に向かって怖い顔とかよく言えたな。
それこそ失礼だろ」
「……」
言われて気づく…確かに、だいぶ失礼だった。
「…ごめんなさ…ふ、ふふ…っ」
堪えてもつい笑ってしまう。
だって、おもしろい…
何だろう、この居心地の良さは。