第1章 とある非番の朝
トントントン…
まな板から
規則的な音が響いている。
聞いていると、
心がほっとしてくる。
ぼんやりとした頭を起こし、
音のする方へ向かう。
煉獄家の台所に
弟の千寿郎…ではなく
美玖の姿があった。
夜も空けきらぬような時間から
きっちりと着物を着付け、
さつまいもを切っていた。
(今朝はさつまいものみそ汁か)
自身の好物を用意してくれている事に
心がぽかぽかと温まる。
普段から心を燃やしているが、
それとは違う。
春の木漏れ日のような
暖かさに包まれるような心地だった。
しばらく見つめていると、
こちらに気付いた美玖が声をかけてくる。
おはようございます。杏寿郎さん。
もうすぐできますから、
今日はさつまいものお味噌汁ですよ。
にっこりと笑う美玖を見ていると
胸が高鳴ってしまう。…ダメだ。
すまない。
一言、そう伝えると
きょとんとする君。
素早く後ろに立ち、
力いっぱいに、けれど優しく抱きしめる。
きっ、きょ、杏寿郎さんっ?
顔を赤らめて慌てている。
その姿が愛らしく、
自身の鼓動が更に速まるのを感じる。
何故、こんなにも愛らしいのか…!
邪魔をしてしまってすまないが、
こんなにも愛らしい美玖が悪いのだ。
ますます赤くなる美玖
このまま部屋へ連れて行きたいくらいだ。
さらってしまおうかと思った時、
杏寿郎さん、
朝餉の支度がありますっ
なので、その、えっと、、
終わりましたら…続きを…
しどろもどろになりながら
恥ずかしそうに言う美玖。
耳まで赤くして、俯きながら、
…愛おしい。
ダメだ。耐えられる訳がない。
その瞬間、
ひょいっと横抱きにして、
そのまま額に口付けた。
それは聞けないな。
俺が我慢できそうにない。
悪いが、朝餉は昼に頂くとしよう。
にこりと笑って伝える。
美玖が、口を開こうとしている。
恐らく何か抗議するのだろう。
それを待たずにそのまま口を塞いだ。
何度も、角度を変え、何度も。
美玖の吐息が徐々に荒くなり、
時折愛らしい声が漏れる。
愛している。
君を見ているだけで、
たまらなく愛しいのだ。
そのまま自室に向かう。
恐らく昼過ぎまで離してやれそうにない。
fin