第1章 ◆DOLLS/ケイト
「今日行くね」
食堂でエース、デュース、グリムとランチを取っていたところにケイト、リドル、トレイが合流し、談笑していた時だった。耳元で囁かれる。
特に驚きもせず、今回は長かったなとか、グリムに他の部屋で寝るよう伝えなきゃなどと今夜の予定を考えていると
「監督生、どうかしたか?」
と急に黙り込んだユウをデュースが心配そうに覗き込んでいた。
「…ぇ?…あっ。何でもないよ!えっと…次の魔法史の課題やったかなぁって…。」
慌ててありきたりな嘘をつくと、エースが課題を忘れていたと慌てふためく。それをきっかけに少しの間静まったテーブルはまた騷しくなる。黙り込んだ理由を追求されないことにホッとしつつ、チラリと横を見ると耳元で囁いた主でもあるケイトはこちらを見て薄笑いを浮かべていた。
ユウは体が熱くなるのを感じ、慌てて目の前の水を飲み干した。
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ブツブツと文句を言うグリムを宥め寝かしつけた頃、寮の入口から微かにノック音が響いた。深呼吸をし、客人を迎い入れる。
「おまたせー」
いつもと変わらない調子のケイトに少し腹立たしさを感じつつ寝室へ招き入れる。
「で?」
寝室に入るなり、ケイトに問いかける。普段ならもっと気軽に話せるはずが、夜に二人きりになるとこれから起きることを考えてしまい途端に緊張してしまう。
ーもっと可愛らしく出来たら。
何度もそう思うが、上手く行かない。
そんなユウの気持ちを知る筈も無くケイトはベッドに腰掛け答える。
「今回はね『けーくんといると〜楽しいけどぉ、楽しいだけなんだよねぇ〜。』って言われて振られちゃったんだよねー。」
何故聞きたくもない話を聞いたのか後悔する。
「……あと少しで記念日とか言ってたじゃないですか。」
全くおめでたくもないのに「おめでとうございます」と口だけのお祝いを伝えた記憶がある。
「そー!記念日デートに向けて色々調べてたんだけどね。」
やれやれと言いつつ、そこまで残念そうに見えないのは彼の性格かそこまでの付き合いだったのか。
「…で、監督生ちゃんはいつまでそこにいるつもりなの?」
あぁ、まただ。
優しい雰囲気にどこか影を感じさせる笑み。
「おいで」
入口に立つ私をケイト先輩は真っ直ぐと見つめ呼び寄せる。たったそれだけで、頭はクラクラとし体は云う事が効かなくなる。