第12章 夢と現実 弐
「私では目で追うのがやっとです。例え援護に入ったとしても足手まといにしかなりません。人を喰らう鬼になりたくないですが、今は力が欲しいと心から思います」
その横顔には悔しさが全面に滲み出ており、問いかけた炭治郎はもちろん他の者も掛ける言葉が見つからなかった……たった1人を除いて。
「むーー、んむ」
更紗より僅かに背の低い禰豆子は腕を伸ばし、更紗の頬を撫でた。
目を細めたその表情はとても優しく、まるで妹をあやすようなものだった。
「禰豆子はきっと、励ましているんだ。元気出してって」
炭治郎の推測が合っていたのか、禰豆子は頷いている。
「禰豆子さん……ありがとうございます。もう大丈夫です!待機命令が出ていますが、もしもの事があれば……師範の意志を継いで私が出ます」
考えたくもない事だが階級的にも体力、体の損傷具合を考えても更紗が妥当なのだろう。
力量では適うわけもない相手だと分かっていても、交渉次第ではこの場の全員の命を助ける事は可能なはずである。
(私自身を差し出せば……猗窩座は身を引くかもしれません。どのみち師範が居なくなればこの場の全員殺される。それなら、未来ある炭治郎さんたちを逃がした方が懸命なはずです)
鬼に自分の身が渡るのは懸念事項として残るがその前に命を絶つなり何なりすれば被害は最小限になるはず……
言葉にならない声を心の中で呟き、更紗は杏寿郎へと視線を戻した。