第10章 裁判と約束
そうして採血を終え、2人は礼と謝罪をしのぶと実弥に告げて診察室をあとにしようとすると、扉の近くにいる実弥に呼び止められた。
「おい、お前ら……簡単にくたばんじゃねぇぞ。特に更紗、俺たちと笑顔の思い出を望んだてめぇが死んじまったら、思い出もくそもねぇからなァ」
実弥は立ち上がり更紗の頭に手を置く。
「意地でも生きて生きて笑ってろ」
前にも見た事のある、何かに思いを馳せるような笑顔。
その笑顔の理由は、聞いても今は答えてくれないだろう。
更紗に出来ることは、実弥の言葉を現実にすることだ。
「はい、必ず。実弥さんも笑顔を望むその人と生きて笑ってください。約束です」
更紗の胸の内を見透かしたような言葉に苦笑いを零しながらも頷いた。
それを確認した更紗は小指を差し出す。
何の意図かと視線で問うと、その小指を自分の小指に笑顔で絡めてきた。
「指切りげんまんです」
実弥がそれに対して返事をする前に、静かな診察室に約束を契る歌が響く。
指をきると、言葉を残して今度こそ笑顔で去って行った。
「約束破っても針は飲んでもらいませんが、死ぬほど悲しみます」
実弥は約束を破るわけにはいかなくなった。