第10章 裁判と約束
1番悲しみに昏れるはずの2人の笑顔を目の当たりにしたしのぶと実弥も、いつまでも重たい空気を漂わせるべきではないと判断し、少々強引ながらも笑顔で2人へ向き直る。
目の前で笑い合っている2人は本当に幸せそうで、悲しみなどないように映り思わず眩しさに目を細めそうになるほどだ。
そうしてようやく葬儀のような空気がなくなると、杏寿郎は高く掲げていた更紗の体を下ろし、自分の顎くらいの高さにある頭を優しく撫でてやった。
その心地良さと皆の笑顔を目に出来たからか、フニャと顔を綻ばせた更紗の前へ、しのぶは数本の小瓶を手に歩み寄りそれを手渡す。
「これは今日使った造血薬と同じものです。先の任務で必要になるかもしれないので持っていてください。更紗ちゃんはまだまだ成長期で、これからどんどん治癒の力も強くなると思います。だからと言って力を無闇矢鱈と使ったり、造血薬があるからと安心して今日した事を頻繁に繰り返す真似はしないでくださいね」
造血薬と聞いて何度か試してみようとひっそり思っていたが、それを見越したように笑顔で抑止され、更紗は心の中で冷や汗を流した。
「との事だ、更紗。きちんと胡蝶の言いつけは守るように。それはそうと胡蝶、更紗の力が強くなっているのは成長期だからなのか?他に何か考えられる理由があれば知りたいのだが」
更に釘を刺され冷や汗は増したが、杏寿郎のしのぶへの質問が自分も聞きたかったことなので気を取り直して耳を傾ける。