第9章 風柱と那田蜘蛛山
「怒ってなどない。だからそんな悲しい顔をしないでくれ。技に関しては、この件が片付いて落ち着いてから一緒に考えよう」
更紗の柔らかな頬に杏寿郎が触れると、青白くなっていた肌に赤みがさし、沈んでいた表情が少しずつ笑みへと変わっていった。
「はい!よろしくお願いいたします」
「うむ!それにしても下弦の鬼を1人で倒すとはな!元下弦の鬼に続き、君の引きの強さを喜ぶといい!」
更紗からしてみれば、元下弦の鬼に関しても今回の件に関しても、あまりに後味が悪かったので素直には喜べないが、少しでも杏寿郎に近付けるのであれば気持ちが救われる気がした。
「杏寿郎君が守ってくださったから勝てたのですよ?1人ではまだまだです!」
「いや、あの足技があれば大抵の鬼に勝てそうだぞ!」
本気とも冗談ともとれる表情で言われ、喜びよりも恥ずかしさが勝ってくる。
「あ、あれはもしもの時に役立てろと天元君が教えてくださいまして」
「やはり宇髄か!では今から合流して、俺も早速ご教授願うとしよう!様々な場面で役立ちそうだ!では、そろそろ向かおう、随分と待たせてしまっているからな」
更紗は杏寿郎に促され、合流予定だった3人の柱の元へ足を動かそうとしたが、それはすぐに止まった。
なんと3人はひっそりと家屋の屋根の上から今までの事を見守っていたらしく、突如空から姿を現したのだ。