第9章 風柱と那田蜘蛛山
「何をコソコソと。何が人の為に闘える立派な人間だ……あぁ、だが人の後ろに隠れるしか脳のない忌み子を生き長らえさせたことは、賞賛に値するなぁ!」
相変わらず更紗へと挑発的な言葉投げ付けながら、腕から伸びる鎖をしならせて杏寿郎の背後へ攻撃する。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
しかしそんな見えきった攻撃を易々と杏寿郎が許すはずもなく、呆気なく弾き飛ばされる。
「貴様はもう黙っていろ。影に隠れ見えぬ所から華奢な少女を先に狙う輩にとやかく言われる筋合いはない。それにこの少女は弱くない、愚弄するな!」
なおも続けられる攻撃さえも、杏寿郎からすれば準備運動だと言わんばかりに完璧に全て無駄なく防がれる。
「チッ、弱くないだと?お前の後ろから出てこない奴のどこが弱くない?怯えて震え涙を流し、助けを求めるしか昔から出来ないよなぁ!」
「それはどうだろうな?更紗、この輩に見せてやれ!」
杏寿郎は背後に庇っていた更紗の前から退き、視界を開けてやる。
そうして当主の目に映ったのは、怯えも震えもなく、涙の代わりに一際赫い瞳を闘志に漲らせた少女の姿であった。
「なんだその目は……俺に盾突くんじゃねぇ!」