第9章 風柱と那田蜘蛛山
更紗は腕に目を落としその全容を明らかにさせると不愉快だと言わんばかりに眉を寄せ顔を歪ませた。
「さすが……モノに執着するだけのことはありますね」
それは鎖であった。
更紗の力を欲し縛り付けた11年。
手元から逃れれば攫ってでも取り戻す執念。
鬼となってその力を我が物にしようとする執着。
そして己が欲の邪魔をする杏寿郎への怨念。
それが具現化したような醜い感情のみがこもった鎖を払い落とし、地面へと膝をついたままの当主へと一気に間合いを詰める。
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
高速で繰り出された技は当主の頸をかするが、すんでのところで躱され僅かに血を滲ませるだけに終わる。
「久しぶりの再会だというのに、とんだご挨拶だな。11年も同じ屋根の下で暮らしたんだ、熱い抱擁の1つくらいあってもいいだろ」
頸を一撫でして傷を回復させると2人へ向き直り、下卑た笑みを浮かべて瞳を見せつけた。
「下弦ノ陸……ですか」
そうが言うが早いか、杏寿郎は2人の間へ一瞬で割り込み更紗を背後に庇って身構える。
「君は下がっていなさい。俺が相手をする」
「姫を守る武士のようだな!」
目の前に立ちはだかる杏寿郎を嘲笑い、その背後に守られた少女へ容赦ない言葉を投げつける。
「お前はいつも誰かに守られなければ生きれない奴だな!俺の嫁に守られ飯をのうのうと食らい、それが居なくなれば次は甥に色目使って誑かして意のままに操るんだもんな!どんな気持ちだったか教えろよ、誑かした男がお前のせいで死んだ時の気持ちをよ!」